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「あ、話し中すいません……由貴、携帯の充電切れたんだけど、充電器貸してくれねえ?」
「え、ああ。いいけど……鞄に入ってっから勝手に使っていいぜ」
「お前の鞄中ごちゃごちゃしてて見つけんの面倒」
「面倒って……」
由貴は竜の我侭な言い分に戸惑っていると、隆子はにこりと笑って由貴の肩に手を置いた。
「返事はまた後でいいからね……部屋に戻っといで」
「……じゃあ」
由貴は立ち上がると、おやすみ、と隆子に言って居間を出た。
竜はすでに居間から離れており、階段のところで由貴を待っていた。
「……なんだよ、充電器持ってきてねえ――」
ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……
由貴の声を遮って、竜の携帯のバイブ音が響いた。チカチカと小さな画面が光り、メールの受信を知らせていた。
由貴は目を見開いて、その携帯を見た後、竜に視線を向けた。竜は顔をしかめて、携帯をジャージのポケットに入れると前を向いて階段を上り始めた。
「ちょ、竜! どういうことだよ……携帯、充電切れてねえじゃん」
「電話」
「え?」
「陽子さんから電話かかってきたんだよ。由貴と話したいから、呼んで欲しいって」
急いでたみたいだから早くかけろよ、と竜は言うと止めていた足をまた動かして階段を上り始めた。
由貴は竜の言葉に呆然としていたが、階段を上りきった竜が下で立ち尽くしている由貴を見て、何やってんだよ、と呆れたような顔をしたのを見ると、口元を緩めて弧を描き、勢いよく階段を上っていった。
「なんだよー! 憎いことするねえ、コノヤロー!」
「うるせえ」
由貴は竜の肩を叩きながらからかうと、竜は眉をひそめて不機嫌そうな顔をした。
よく考えれば、めんどくさがりの竜が携帯の充電が切れたくらいで由貴を呼びにくるはずがない。それに、いくら充電器がなかったとしても人の話の邪魔をしてまで、我侭を言う性格でもないのだ。
竜は肩に置かれた手を乱暴に払うと、先に部屋に入って扇風機の前を陣取っていた。
由貴はそんな竜の様子を見た後、顔を伏せた。
「……ありがとな」
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