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「何すんだよ!!」
「菊乃ちゃん、じゃ」
「は?」
由貴はさすがに理由なく与えられた暴力に怒って、ちゃぶ台を叩いて怒鳴ったが、老婆の言葉に意味がわからず、呆然とする。
竜はその様子をぼんやりと見ている。店の店主である老婆、江島菊乃は腰を手に当てた。
「おばちゃんじゃない、菊乃ちゃん、じゃ」
「いやいや、菊乃ちゃんって似合わね……いってええ!!」
菊乃ちゃんと呼べと強要する菊乃に、由貴は呆れたような顔をして、笑い飛ばそうとしたが、二度目のお盆の襲撃に頭を抱えて蹲った。それを見ていた竜は、やれやれと呆れたように溜息をつくと、菊乃に声をかけた。
「菊乃さん、注文とってもらってもいいですか?」
「…………」
「なんすか?」
竜の声に菊乃は振り返って竜を見ると、目を見開いて竜をじっと見つめた。竜はやたら顔を近づけてくる菊乃に身体を後ろに引くと、菊乃の瞳が潤み、竜に抱きついてきた。
「おじいさん! 今まであたしを一人にしてどこに行ってたの!」
「!?」
「……竜、お前菊乃ちゃんと……」
「ちげえよ! んだよ、このババア! 離せ!」
しっかりと竜の服にしがみつく菊乃に、竜は珍しく狼狽していた。由貴はそんな様子を面白そうに見ていた。
それから15分後、なんとか菊乃から解放された竜はちゃぶ台に突っ伏してぐったりとしていた。由貴は「炭酸(ミドリ)」という名のメロンソーダを飲みながら、竜の肩に、ポンと手を置いた。
菊乃いわく、竜の顔が死んだ旦那・次郎にそっくりだったために思わず感極まったらしいが、店に置いてある写真の次郎と竜はまったく似ていなかった。
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