11皿目 モテ期到来

2/4

4382人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
 7月28日。  蝉の声が何十層にも重なり、居間の中に響く。  由貴は手を伸ばして、箸で卵焼きを掴むと口に運んだ。竜は食欲がないのか、箸の動きが遅い。 「由貴君に藤嶋君、今日はどうするの?」 「ほ? ほふひはんひもはんはへへて」 「……食ってからしゃべれ」  清治の問いかけに由貴は口に詰め込んだまましゃべると、隣にいた竜が呆れたように冷めた声で注意した。清治はその様子に苦笑いを浮かべる。由貴は急いで口を動かし、ゴクリと飲み込むと清治に先ほど伝えられなかった言葉を紡いだ。 「特になんにも考えてないっすねえ。妖怪のとこに行くのはもう嫌だし……」 「妖怪?」 「いや、なんでもないです!」  後半の小さな声で呟いた言葉を聞き返してきた清治に、由貴はにんまりと笑って誤魔化した。  『ふぁみれす』という名の民家にいた、江島菊乃という名の美少年好きの妖怪を由貴は思い出していた。竜も昨日のことを思い出しているのか、若干顔が強張っていた。  清治は、不思議そうな顔をしつつ言葉を続けた。 「じゃあ、丁度よかった。実はね、明日の祭りの準備でどうも人手が足りなくて、よかったら二人に手伝ってもらいんだけど……いいかな?」 「いいですよ。どうせ暇だし、俺らに出来ることがあるなら。な、竜」 「……ああ」  由貴は竜に同意を求めると、竜は一瞬外の暑さを想像してか、眉を顰めたが、小さく頷いた。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4382人が本棚に入れています
本棚に追加