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7月28日。
蝉の声が何十層にも重なり、居間の中に響く。
由貴は手を伸ばして、箸で卵焼きを掴むと口に運んだ。竜は食欲がないのか、箸の動きが遅い。
「由貴君に藤嶋君、今日はどうするの?」
「ほ? ほふひはんひもはんはへへて」
「……食ってからしゃべれ」
清治の問いかけに由貴は口に詰め込んだまましゃべると、隣にいた竜が呆れたように冷めた声で注意した。清治はその様子に苦笑いを浮かべる。由貴は急いで口を動かし、ゴクリと飲み込むと清治に先ほど伝えられなかった言葉を紡いだ。
「特になんにも考えてないっすねえ。妖怪のとこに行くのはもう嫌だし……」
「妖怪?」
「いや、なんでもないです!」
後半の小さな声で呟いた言葉を聞き返してきた清治に、由貴はにんまりと笑って誤魔化した。
『ふぁみれす』という名の民家にいた、江島菊乃という名の美少年好きの妖怪を由貴は思い出していた。竜も昨日のことを思い出しているのか、若干顔が強張っていた。
清治は、不思議そうな顔をしつつ言葉を続けた。
「じゃあ、丁度よかった。実はね、明日の祭りの準備でどうも人手が足りなくて、よかったら二人に手伝ってもらいんだけど……いいかな?」
「いいですよ。どうせ暇だし、俺らに出来ることがあるなら。な、竜」
「……ああ」
由貴は竜に同意を求めると、竜は一瞬外の暑さを想像してか、眉を顰めたが、小さく頷いた。
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