12皿目 ドラゴンフェロモン

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「由貴君、そこの机運ぶの手伝ってもらっていい?」 「了解でーす」  清治に呼ばれた由貴は袖を肩まで捲り上げると、意気揚々と清治の下へと足を進めた。  広場の隅では、子ども達が遊び、大人達は明日に迫る祭りの準備に取り掛かっていた。  広場には出店用のテントが組み立てられ、やぐらには木の骨組みが見えないように大きな布が掛けられている。  竜がテントのカバーを抱えて歩いていると、広場の入り口から一台の車が入ってくるのが見えた。車体には達筆な字で『民宿 はまむら』と書いてある。 「藤嶋君! こっち、こっち」 「あ、はい」  組み立てられたテントの側で竜を呼ぶ男の声に、竜は振り返って返事をすると近くで止まった車を一瞥してから、テントの側へ向かった。 「奈緒と京一は、その箱に入ってるお弁当持ってきて」 「うん、わかった」  運転席から出てきたのは、白の割烹着を着た恰幅のいい女性、浜村美里(はまむらみさと)である。美里はトランクを開けて、後ろの席から出てきた娘の奈緒(なお)と息子の京一(きょういち)に、運ぶように指示すると、自分も両手で大きな箱を持って広場の中央へと向かっていった。 「ちょっと、京一。あたし一人でこんなの持てない」 「何か弱いふりしてんだよ」  京一は、腕を引いてくる姉の奈緒を呆れたように見ると、箱を持ち上げて美里のあとを追いかけていった。  奈緒は、そっけない京一の態度にブツブツと文句を言いながら、箱に手を伸ばすと腰に力を入れて持ち上げた。  箱の中には、弁当が10個ほど入っている。
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