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「……裕斗君が笑ってるの初めて見たかも」
竜が心底鬱陶しそうに弁当をつついていると、隣に座っていた奈緒が裕斗を見ながら呟いた。
竜はその言葉に、奈緒を一瞥した後、由貴とじゃれている裕斗に視線を移した。
「……アイツ、嫌われてんの?」
「え? いや、そういうわけじゃないんですけどお」
竜が初めて自分から話しかけてきたことに、奈緒は嬉しそうに瞳を輝かせて話し始めた。
「裕斗君って、もともとこの村の子じゃないんです。去年引越してきたんですけど……中々みんなに溶け込めなかったみたいで、いつも一人でいるってイメージがあるんですよね」
「ふうん……」
竜は初めて会ったときとは見違えるほどに、明るく笑っている裕斗を見ながら、もう食べる気はないのか、割り箸を置いて弁当に蓋をしていた。
すでに片付け始めている竜に気付くことなく、奈緒は口を動かしていた。
「それに裕斗君のとこ共働きみたいで、家で留守番してることも多いし、やっぱり寂しいんだと思います。お父さんの和人さんなんてここ最近見てないし」
「…………」
「やっぱり、家族は一緒にいないと駄目ですよね? あたしは、結婚したら絶対素敵な旦那様もそんな旦那様に似た可愛い子供も、大事にしたいと思うんですけどお…………って、あれ? 竜様?」
奈緒はモジモジと人差し指をすり合わせながら、チラリと隣にいた竜を見たが……すでにそこに竜はいなかった。
奈緒が竜を探して、辺りを見渡すと、竜は離れた場所にあるゴミ袋に弁当を捨てていた。
「もお、つれないなあ……でも、そんなとこも素敵……」
奈緒は両手を胸元で握ると、竜をうっとりと見ていた。
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