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「んー……なんか、物足りねえなあ……」
由貴は弁当を完食したがまだ物足りないらしく、ぶつぶつ言いながら弁当を片付けていた。京一はすでにその場を離れて、美里の手伝いをしていた。
由貴はお茶の入ったペットボトルを手に取ると、すでに温くなっているお茶を喉に流し込む。
「由貴君、これよかったら食べな」
「え、いいんですか!?」
「ああ。成長期にそれだけじゃ足りないだろう」
すると、ちょうど近くで昼食をとっていた壱也の父親である拓郎が由貴にお菓子の袋を渡した。由貴は嬉しそうに、にんまりと笑って袋を受け取る。
「ありがとうございます! うは! うまそう!」
「はは、それは栄治君も好きでね。よく食べてたんだよ」
「そうなんすか」
由貴は拓郎から渡されたお菓子の袋に視線を落とした。
透明なビニールの袋の中に、チョコレートでコーティングされたクッキーが入っている。
由貴は父親の栄治がこの村にいたころ、好んで食べていたお菓子だと知ると、嬉しそうにそれを眺めて袋を開けようとしたが、袋はまったく開く気配をみせなかった。
「んーー!! あ、あかねえ!」
必死で袋を両手で引っ張るが、開かない。裕斗は由貴の隣で、その様子を眺めていた。
由貴は力を緩めて、ふうっと息を吐いていると、いつの間にか側に来ていた竜が声をかけた。
「何やってんだよ」
「お、竜。いやさー、この袋ぜんっぜん開かねえんだよ! なんだ、由貴ちゃんには食われたくねえってか!」
バカヤロー、ビニールコノヤロー!と騒いでいる由貴を竜は呆れたようにポケットに両手を入れて眺めていると、竜の後を追ってきた奈緒が由貴に声をかけた。
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