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17:30。
太陽の日差しが弱くなり始めていた。明日に控えた祭りの準備は着々と進み、広場にはいくつものテントが並び、やぐらを中心にちょうちんが吊るされている。広場にいた大人達のうち何人かは帰り始めていた。
「スイカソーダ……なぜに、スイカ。なぜにメロンでなく、スイカ」
「…………」
由貴と竜は、広場の入り口近くにある自動販売機の前で種類の少ない缶を眺めていた。二人の視線を独り占めしている『スイカソーダ』は缶ではなく、瓶に入っており、やたら体に悪そうな赤い色をしていた。
由貴はブツブツと呟きながらそれを見つめ、竜はその味を想像したのか、眉を顰めていた。
「なあ、竜……これは俺への挑戦だよな? メロンソーダを愛するこの俺への挑戦だよな?」
「知らねえよ」
由貴は、自分はこれを買うべきなのかと竜に問いかけるが、竜はそんな由貴を呆れたように見た後、ポケットから財布を取り出して小銭を自動販売機に入れた。
まだ悩んでいる由貴を尻目に、竜はスポーツドリンクのボタンを押した。
ガコン!
缶が勢い良く落ちてきた音が響く。
竜はしゃがみ込んで、取り出し口に手を伸ばそうとしたとき、二人の側に一台の車が止まった。
由貴と竜が不思議そうな顔をしてその車に視線を移すと、車の後部座席の窓がゆっくりと開いた。
「竜様ー! おつかれさまですう! 明日の祭りは一緒にまわりましょうねえー!」
「…………」
さよーならー!と窓から身を乗り出して叫ぶ奈緒を、隣に座っていた京一が恥ずかしそうに車の中に戻すと、車は走り去っていった。
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