15皿目 ボスに敬礼

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 道を照らすものは電信柱に付いている外灯のみ。  車のライトもコンビニの電気の明るさもない道を由貴と竜は、ゆっくりと歩いていた。  まっすぐに続く田んぼに挟まれた細い道。耳につくのは虫の声と風の音。 「あー、つっかれたー絶対筋肉痛になるわあー」 「体力ねえな」 「なんだよ、竜だってヘトヘトのくせに」  由貴は竜の言葉に苦笑いしながら、手を頭の後ろで組むと背中を反って伸びをした。  竜はポケットに両手を入れたまま、気だるそうに歩いていた。しばらく黙って歩いていると、二手に分かれた道に着いた。右か左か。竜が迷うことなく右の道へと足を進めようとすると、由貴が竜の腕を引いた。 「左じゃね?」 「いや、こっちだろ」  竜は由貴を振り返って、呆れたような声を出したが、由貴は竜の腕を離すと左の道を指差した。 「いやいや、ぜってえ、左だって!」 「……間違ってたら?」 「メロンソーダ禁飲する!」  やたら自信満々に答える由貴に竜は、やれやれといった様子で息を吐いた。由貴は竜の様子に満足げに笑うと、左の道へと足を進めた。竜は意気揚々と歩いていく由貴の背中を見た後、右の道を一瞥すると、由貴の後を追った。 「…………」 「……いつまで禁飲するか考えとけよ」 「いや、あの、あれはその場の勢いと言いますか、一時のテンションに身を任せてしまったと言いますか……ごめんなさい」  由貴は、ギロリと鋭い視線を向けてくる竜に慌てて頭を下げた。竜は眉を顰めて、深い溜息をつくと自分の目の前にある建物を見上げた。  『民宿 はまむら』  由貴の自信満々な判断は見事に外れ、着いた場所は岡本家ではなかった。辺りは見たこともない風景が広がっている。  竜は舌打ちをすると、ポケットから右手を出して、あちこち跳ねているブラウンの髪を掻き混ぜた。
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