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竜は心底めんどくさそうな顔をすると、『民宿 はまむら』へと足を進めた。隣でしょんぼりと反省していた由貴は、顔を上げて竜を見た。
「竜? どこいくんだよ」
「どこって、ここでじっとしてても仕方ねえだろ」
帰り方聞くんだよ、と竜は不機嫌そうに言うと、民宿の扉に手をかけた。由貴は一瞬、呆然としたが慌てて竜の後を追った。
「あれ、竜さんに由貴さん……どうしたんですか?」
竜が扉を開けると、そこには丁度玄関の掃除をしていた京一がいた。京一は紺色の半被のようなものを服の上から羽織っていた。
竜は迷子になったと言うことに抵抗があるのか、一瞬口を噤んだが、溜息を一つつくと口を開いた。
「……道に迷ったんだけど、斉藤って家わかんねえ?」
「え? ああ、わかりますよ。清治さんの家ですよね」
京一は一瞬驚いた顔をしたが、居心地悪そうに眉をひそめて視線を逸らしている竜に笑いかけた。
「父さんは今風呂に入ってて無理なんですけど、母さんなら出られると思うんで呼んできますよ。もう暗いし、ここから清治さん家まで遠いから車出すように頼んでみます」
「ありがとな」
竜は京一の言葉に、申し訳無さそうな顔をすると、京一に視線を合わせて小さく礼を言った。
「いいですよ、姉貴が迷惑かけたお詫びです」
京一はそう言って笑うと、部屋の奥へと入って行った。竜は京一の後ろ姿を一瞥した後、両手をポケットに入れて本日何度目かの溜息をついた。
由貴は自分の根拠の無い自信のせいで迷惑をかけてしまったことをすまなく思っているのか、眉を下げて小さく笑った後、気まずそうな顔をして右手を後頭部に当てると、髪を撫でた。
「あー……っと、竜……ごめん」
「次やったら……覚悟しとけよ」
「リョ、リョウカイシマシタ! ボス!」
冷たい視線の奥に竜の本気を感じた由貴は、ピシッと背筋を正して敬礼をすると、やや怯えながら返事をした。
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