16皿目 ドラゴンの気まぐれ?

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「すみません、急に車出してもらって……」 「いいのよ、今日は疲れたでしょう」  薄暗い夜道を一台の車が走る。安定の悪い道のため、車体が左右に揺れる。  由貴は後部座席から身を乗り出して、運転席に居る美里にすまなそうに声をかけると、美里は人のいい笑みを見せた。  オレンジ色のエプロンに似合う明るい優しそうな笑みを浮かべる美里に由貴は頬を緩めると、もう一度謝った。竜はシートにもたれて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。  窓の外は、昼間の青々しさが嘘のように暗闇に包まれ、鬱蒼と茂った草木はどこか不気味な雰囲気を醸し出していた。  19:40。  砂利の上を走る音が辺りに響く。斉藤家に由貴と竜を乗せた車が到着する。竜は後部座席から降りると運転席の横へと回った。美里は運転席の横の窓を開けて、竜を見上げた。 「わざわざ送っていただいて、ありがとうございました」 「いいのよ。えっと、確か竜君だったかしら? ふふっ、奈緒が騒ぐはずだわ、本当に綺麗な顔してるのね」  うっとりとした顔で見つめてくる美里に竜は、奈緒に近いものを感じて頬を引きつらせた。竜は乾いた笑いを見せると、ゆっくりと後ろに下がる。 「竜、家入ろうぜ」 「あ、ああ……それじゃあ」 「ええ、またね」  竜は、にこりと微笑む美里から視線を外すと、美里に背を向けて玄関近くにいる由貴の元へと足を進めようとした。  すると、そのとき、玄関のドアが勢いよく開き、清治が慌てた様子で出てきた。清治は由貴と竜を視界に入れると、目を見開いた。 「あ、二人とも! 遅いから心配したんだよ!?」 「え、あ、すみません。道に迷って……」  あまりの剣幕に由貴は驚いて目を見開いた。  その後、由貴が清治に、道に迷って美里にここまで送ってもらったことを話すと、清治はその言葉に顔を伏せて、ホッと安心したように息を吐いた。  由貴と竜が清治の様子を見ていると、清治は何かを思い出したように慌てて顔を上げた。
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