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「……なんも聞かねえの?」
「何を聞くことがあんだよ」
「ほら……なんで、お袋と姉ちゃんが来れねえのかーっとか、さ……聞かねえの?」
由貴がそう言うと、竜は瞼を上げて由貴を一瞥した後、また窓の外に視線を向けた。
車内にはガタガタと車体が揺れる音だけが響いている。竜は少し黙った後、視線を窓の外に向けたまま、口を開いた。
「言いたい事は聞かなくても言うだろ、お前は。言わねえってことは言いたくねえんだろ?」
無理やり聞く気ねえし、と竜は呟くと窓の外から由貴に視線を戻した。
由貴は竜の言葉を、ぽかんと口を開けて聞いており、竜はその顔に呆れたような顔をした。
「なんつー間抜けな顔してんだよ」
「…………」
「……由貴?」
由貴は顔を俯かせると、座席からゆっくりと立ち上がり竜の前の座席へと移動した。
竜はその由貴の行動を頬杖をついたまま不思議そうに目で追っていると、由貴は座席に最初に竜が座っていたように横向きに座って、窓に背を預けた。
「…………」
「おい、どうしたんだよ」
顔を俯かせている由貴に竜は不審げな顔を向けると、由貴は、はあと大きな溜息を一つついた。
「なんで竜はそう鋭いかなー……」
「鋭いも何も、お前がわかりやすすぎんだろ」
竜の呆れたような声に由貴は、顔を俯けたまま竜を横目で見ると、やはり声と同じように面倒くさそうな顔をしている竜を見て小さく笑った。
それから、由貴は顔を上げて窓に頭をもたれさせると、ぼんやりと車内を見ながら口を開いた。
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