18皿目 意外と腕力あるんです

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 省吾の足元から先は、清治が滑りそうになった下り坂よりも急な、崖といったほうがいいような光景が広がっている。  省吾は三人に気付くと、視線を下から三人の方へと向けた。省吾は顔を歪めて、首を横に振った。  省吾の様子に三人は息を飲むと、ゆっくりと省吾の立っている場所の側へと歩みを進めた。先に下を覗いた清治は左手で口元を隠して眉を顰めると、視線を逸らした。  ゴクリ、と由貴と竜は同時に唾を飲み込んだ。  由貴と竜は異様な緊迫感に包まれていた。竜が右手に持っていた懐中電灯を崖の下を照らすように向ける。  一本の光の線が右へ左へとゆらゆらと揺れる。  暗闇の中で光をあてた場所だけがはっきりと見える。竜の手がある一点で止まった。 「!!」  由貴はその一点に視線を向けると、その光景に目を見開いた。  懐中電灯の明りに照らされた先には、うつ伏せに倒れている卓也がいた。卓也の左腕は曲がるはずのない方向へと折れ、青い服のほとんどがべっとりとした血で色を変えている。身体の下敷きになっている草や木の枝は不自然に潰れ、赤黒く変色していた。  あまりの悲惨な光景に竜と由貴は視線を逸らした。 「……狐様だ……」  省吾は怯えたように顔を歪めると、震える手を握り締めながら何度も同じ言葉を呟いていた。  生臭い鉄の臭いが辺りを包む。  風が四人の頭上にある木の枝を揺らしていた。
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