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闇に包まれた森の中。ぼんやりと照らす懐中電灯の明り。
省吾、清治、竜、由貴の四人は黙って崖の下を見ないように、視線を逸らしていた。四人の耳に届くのは、小さな虫の声と風が葉を揺らす音。
沈黙を破ったのは、清治であった。
「……とにかく、村長達に見つかったことを伝えないと」
「そうだな」
清治の言葉に省吾が頷いた。竜は省吾と清治を一瞥した後、視線を下に向けると、ジーンズのポケットに手を伸ばして携帯を取り出した。携帯の小さな明りを発するディスプレイの中には、圏外の文字がしるされていた。竜は舌打ちをして、携帯を仕舞うと、その動作を見ていた清治が苦笑いを浮かべた。
「森の中は電波がないからね、僕が村長達のところに行ってくるよ」
「一人で大丈夫っすか?」
「大丈夫だよ、この辺は幼い頃から遊んでいたからね」
由貴の言葉に清治は小さく笑いかけて、三人にこの場所に居るように言うと、その場を後にした。小さな明りが遠ざかる。
省吾、由貴、竜は暗闇の中に消えていく清治の背中をぼんやりと見ていた。その後、由貴は辺りをぐるりと見渡し、視線を下に向けると、しゃがみ込んだ。竜は由貴の隣に立つと、懐中電灯を下に向けた。
二人の視線の先には、うつ伏せに倒れている卓也の姿があった。
「ひでえな……」
「…………」
由貴は、その悲惨な光景に顔をしかめた。竜は左手をポケットに入れ、右手で懐中電灯を持ち、眉を顰めて卓也の姿を眺めていた。
卓也の小さな腕や足には、崖から落ちたときにできたと思われるすり傷が沢山ついていた。
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