19皿目 切り替え早くね?

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 由貴は卓也から視線を外すと、立ち上がって、卓也を見ないように木に背を預けている省吾を見た。省吾は目元を隠すように手を当て、気分悪そうな様子をしていた。 「省吾さん、大丈夫っすか?」 「え……あ、ああ……大丈夫だ」  省吾は手を離すと、由貴へと視線を向けた。由貴はそんな省吾の様子に怪訝そうな顔をした。省吾は右手で額に滲んだ汗を拭うと、一度だけ深呼吸をした。そして、視線を下げると、眉を下げて苦笑いを浮かべた。 「すまない、どうも去年のことを思い出してしまってね……」 「去年のことって……」  由貴は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに省吾の言葉が意味することに気付くと、気まずそうに視線を逸らした。省吾は崖の下を一瞥した後、視線を足元へと向けると、ゆっくりと話し始めた。 「私の息子も、去年神隠しにあって……卓也君と同じように森の崖下で発見されてね。まったく同じようにうつ伏せで倒れていたんだよ……生きていたら壱也君たちと同じ年かな」  省吾は亡くした息子のことを思い出しているのか、目を細めて悲しそうな顔を浮かべながら、淡々と話していた。 「葵といってね、とても素直でいい子だったんだ」 「……去年は息子さん以外にも、もう一人亡くなったんですよね」 「え、ああ。奥田俊哉(おくだとしや)君という子でね、確か葵の一つ上だったかな。葵の側で倒れていたんだ……葵が兄のように慕っていてね、とても優しい子だったよ。どうして、あの二人が神隠しなんて……葵や俊哉君が神社に悪戯をしたなんて今でも信じられない……」
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