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暗い夜道を二本の細い光が照らす。小さな虫の声が辺りに響く。
清治は由貴と竜の前を歩き、右手に持った懐中電灯で前を照らしていた。由貴はまだ納得がいかないのか、拗ねたように唇を尖らせていた。竜は由貴の隣を歩きながら、左手で懐中電灯を持ち、右手の親指で下唇を触っていた。
「んだよー……よそ者、よそ者って。くせ者じゃないだけマシだと思えっつーの」
「意味わかんねえし」
「わかれって! 竜ならわかるでしょ! 俺ら熟年夫婦みたいなもんじゃん!」
「うぜえ」
「ひっでえええ!」
由貴の不満が、修造の言動から竜の冷たい対応へと摩り替わっているのを、前で歩きながら話を聞いていた清治が小さく笑った。
清治は立ち止まると、じゃれあっている、というか由貴が一方的に竜に絡んでいるのを振り返って見た。
「ごめんね、由貴君……よそ者、なんて言われたら嫌な気分になるよね」
「え、ああ。清治さんが謝ることじゃないっすよ」
それに俺そんなに気にしてないっすから、と由貴が、にんまりと笑って答えると、清治は目を細めて笑った。清治はまた前を向くと、ゆっくりと歩きながら話し始めた。
「本当に……由貴君は英治に似てるよ」
「親父に?」
「うん、そっくりだ」
由貴は清治の言葉に一瞬、驚いたように目を見開いた後、嬉しそうな顔をした。竜は由貴を一瞥した後、清治に視線を向けた。
二人は前を歩く清治の後を追いかける。
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