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暫くの間、二人は何も言わず、由貴は下を向き、竜はぼんやりと視線を前に向けていた。
その沈黙を破ったのは由貴であった。
「なあ、竜」
「……なんだよ」
竜は視線を由貴へと向けた。由貴は下を向いたまま、言葉を続けた。
「……狐様ってマジでいんのかな……竜は、どう思うよ?」
由貴がそう呟くと、竜は眉間に皺を寄せ、目を細めて由貴を見た後、右手で髪を掻き混ぜた。あちこち跳ねたブラウンの髪が揺れる。竜は溜息をつくと、視線を上に向けて口を開いた。
「んなもん、いるわけねえだろ」
「ぜってえ、そう言うと思った」
「なら聞くんじゃねえよ」
由貴は竜の不機嫌そうな声に可笑しそうに笑った。由貴は右手で襟足を掻くと、大きな溜息をついた。
「どうなってんだろーな、この村。まったく、これっぽっちも理解できねえ」
由貴ちゃんお手上げ、と由貴はふざけたように笑うと、竜を見上げた。竜は由貴を一瞥すると、視線を上げて、遠くに見える家の明りを見つめた。
「卓也、なんであんなとこにいたんかねえー」
「さあな」
由貴は目を瞑って顔を伏せた後、ふと何かに気が付いたように目を開いて顔をあげると、辺りを見渡した。竜は挙動不審な由貴に不審げな顔をすると、由貴に声をかけた。
「どうしたんだよ」
「え、ああ。いや、なんか……子どもの声が聞こえた気がしてさ」
「子どもの声?」
竜は由貴の言葉に眉を顰めると、由貴は短い髪を掻いた。
「気のせい、だよな」
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