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大きな車体を揺らしながらバスが停まった。
「じゃあ、また遊びにおいでよ」
バスのドアが開き、由貴が先に乗り込もうとすると二人の後ろに並んでいた見送りの人々の中から清治が一歩前にでて、由貴に声をかけた。由貴は満面の笑みを浮かべて、はい!と元気良く頷くと清治もそんな由貴の姿を見て頬を緩めて笑いかけた。
由貴が乗り込んだ後、ドアの傍に立っていた竜が肩からずれた鞄を掛けなおしてバスの中へと乗り込もうとしたとき、清治が竜に声をかけた。
「藤嶋くん……」
竜は振り返って、清治へと視線を向けると段差に置いていた右足を元に戻して、清治に向き直った。
「色々とありがとう」
「いや、こっちこそ全然関係ないのにお世話になりました」
ありがとうございます、と相変わらず淡々とした口調で言う竜に清治は頬を緩めた。
「藤嶋くんに助けられたことが、本当に多かったんだよ。いてくれてよかった」
「そうすか? 別に大したことしてませんけど」
「ううん、そんなことないよ……なんだか、もう会えないと思うと、さみしいよ」
「…………」
なぜか目を潤ませる30代後半の清治に竜はなんとなく不穏な何かを感じ始めていた。なぜか表情が強張ってしまう。清治の姿を見て固まっている竜などお構いなしに、清治は両手を伸ばして竜の左手を握った。
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