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誕生
『彼』は誕生から試練に遭遇する。
母がお産の状態になってからすでに30時間経過している。
さらに悪天候で厩舎は停電。明かりはロウソクと時折鳴り響く雷の光だけ。産まれてくる『彼』にとって最悪のコンディションだ。
時間が経つにつれ、雨は強さを増し、風は渦を巻くように激しく厩舎を襲う
雨漏りまでしてきて、停電から5時間経過した。
…誰も喋らなくなり、厩務員の誰しもが『彼』の誕生を諦めかけた…その時!!
突如眩しいほどの光とともにバリバリッ!!と渇いた音がした。落雷である。
避雷針には脇目もふらず、『彼』と母がいる厩舎を狙い撃つかのように、一直線に落ちたのである。
厩舎の中にいる厩務員達は落雷の光で目が眩んだ。
……数分後……
目が見えるようになった厩務員達は驚きの光景を目にする。
難産で産まれるそぶりすら無かった『彼』が干し草の上に母と一緒に横たわっていたのである。
!!!!!…《落雷で感電したのか?!》
厩務員達は息を飲んだ…一人の担当厩務員が近付こうとした時、『彼』は小さい体を震わせ、渾身の力を込めて鳴いた。
その声は小さいながらも厩舎中に響き渡り、雨風の音すら掻き消すほど力強い声だった。
産まれてすぐ自分の存在を示し、さらに、一般の子馬が生まれてから立ち上がるまでに平均30分~1時間かかるが『彼』は産まれてから僅か2分という信じられない早さで立ち上がった。
そして胸を張り、小さい体で同世代の誰よりも力強く、そして誰よりも大きく見せた。
さらに難産で苦しんだ母親を心配するそぶりまで見せたのである。
『彼』は産まれて僅かの時間で、賢さという素質の片鱗を皆に見せつけた…
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