822人が本棚に入れています
本棚に追加
暫くして。
私の担当の稜が出勤してきた。
憧れの人が真隣に座っていると思ったら、緊張しすぎて叶多のコトは頭からとんでいた。
―私は稜が好き。―
稜に会いに「Pluie」に来たの。
「好き」って言っても「憧れ」だけど。
叶多クンのコトはいいコだと思う。
仕事でも何でも、私をあそこまで引き出してくれた人、そういない。
でも私は稜が担当なの。
...じゃあ叶多クンは...?
─相手ハ 「ホスト」 ダヨ─
わかってる。でも、私は...。
─私ハ ドウシタイノ...?─
私の心に葛藤が生まれ始めた。
ずっと話をしてみたかった憧れの人。
たまに肩を抱き寄せてきたり。
面白い話でお腹が捩れる程笑わせてくれたり。
頭撫でてくれたり。
その度に、「やっぱり私は稜がいい」って思っていた。
でも。
席を立っていた景が戻ってきてハッと我に返った。
結衣が景に「お帰り、どうだった?」って聞いてるのが聞こえてきて。
ドクンッと心臓が波打った。
結衣が手招きをしてコソッと耳打ちしてきた。
「まだ出勤確認取れてないらしいよ。もしかしたら休みかもって」
「そっか、ありがと」
叶多クンに会えない...。
でも不思議とショックは大きくなかった。
きっと稜がいてくれてるから...だよね...。
そう思うコトにした。
叶多がいないとわかってからは妙に吹っ切れて、景とお菓子の投げ合いをしたりして遊んでいた。
景は当時18歳で。
あどけなさを残しつつもしっかりしたコで。
人見知りをする私が、叶多以外で唯一素で話せるコだった。
この時、自分のコトで精一杯だった私は景の微妙な変化に気付かなかった。
そしてそれは、これから私のキモチを決定的にするのに重要なキッカケを作るコトになる。
最初のコメントを投稿しよう!