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叶多に出会ったのは今から約1年前の5月15日。
日にちまでハッキリ覚えてる。
当時、私21歳。
2年付き合って同棲してた、3歳年上の彼氏と別れて、1人暮らしを始めた頃。
仕事もプライベートもそれなりに充実してた。
高校の時からの友達の結衣と2人。
まだ日も昇る気配のない真っ暗な空の下。
よく飲み歩いてて。
この日もそうだった。
仕事帰り、駅で結衣と待ち合わせ。
いつもと違うのは、今日は目的があるっていうコト。
いつもは目的なく直感で「今日はここにしよう!!」みたいな感じだったから。
私が前から気になってたお店があって。
そのお店に行くコトになった。
見慣れない場所。
眠らない街。
私にとっては何もかもが新鮮に見えた。
まだ夜明け前だというのに、そこだけはやけに活気付いていて。
同じような格好の人が行き交うのを物珍しそうに眺めていた私は、他の人から見たら大分変なコに見えてたかも知れない。
初めて踏み入れる場所にドキドキしすぎて、結衣の後ろにくっついて歩くのがやっとだった。
物怖じしないでスタスタと前を歩いていく、私より1ロ㌢以上も高い結衣の背中を見ながら。
あぁ、やっぱり頼りになるなぁなんて思ったりして。
「凛音、大丈夫?」
ふと結衣が振り返って聞いてきた。
「ん?大丈夫だよ」
「ならいいけど。はぐれないでよ?アンタ方向音痴な上にちっちゃいんだから」
「...二言余計」
「あははっ、ゴメンゴメン」
でも結衣のお陰で張り詰めてた緊張感も緩んだ。
「ここ...だね」
結衣がお店の前で足を止めた。
「な、何かドキドキしてきた」
「大丈夫だよ、私がいるじゃん!!」
「や、やっぱ帰るー」
くるっと踵を返した私の肩を結衣が掴んだ。
「ここまで来といて何言ってんの!!アンタが来たいって言うから付き合ったんだからね!!ほらさっさと行くよ!!」
心の準備ができないまま、結衣に強引に手を引かれた。
あの時は、ここで忘れていた感情を取り戻すなんて思ってもみなかった。
まさかここが私の、最初で最後の「初恋」の舞台になるなんて...。
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