村の夏祭り

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そうして山を降りた二人が向かうのは、祭りの中心となる、村の神社。 ここから、そう遠い距離ではありません。 しかし、村人総出で行なう祭りには、たくさんの人が集まってきます。 ジローも鬼も、そんな人達の波に飲まれ、なかなか神社に辿り着けずにいました。 「はぁ~、人間というのは、ずいぶん大勢いるもんじゃの。」 鬼は、目を丸くしながら言います。 手拭いを深くほうかむりした鬼のそんな表情は、ジローにしか見えません。 この手拭いは、村まで降りてくる間に、ジローがつけさせたものでした。 村の大人達を驚かせたいジローは、皆が集まりきった中で、いきなり鬼のことを紹介したかったのです。 「うん。今日は村の皆が一斉に仕事休んで、祭りに来るんだぜ。」 「ほぉ、そうかそうか。」 返事をしながらも、鬼はキョロキョロとまわりの様子を見ています。 初めて見る人里、人間によほど興味があるのでしょう。 気付くと、神社から響く太鼓の音、酔っ払った大人と、はしゃぐ子供たちの声はずいぶん近くになっています。 少し長めの石段を上がり、鳥居をくぐれば、そこはもう神社というところまで来ていました。
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