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しかし、次の瞬間、声が響きました。
「コリャ!お前ら!何をさっきから喋っておるんじゃ!」
精一杯の小声でしたが、鬼もジローも、心臓が飛び出るほど仰天しました。
見ると、いかにも信心深そうなおじいさんが、こちらを睨んでいます。
「神主様の奉納を邪魔するでない!大体なんじゃ!お前は!神前でほうかむりなどするでない!手ぬぐいなどとらんか!」
おじいさんの手が、鬼のほうかむりに伸び、引っ張ります。
ジローが、鬼が、アッと声を挙げる間もなく、簡単に結んだだけの手拭いは外されてしまいました。
あまりにも強すぎる夏の日差しが、容赦なく鬼を襲います。
おじいさんは、取り上げた手拭いを握ったまま、みるみる青ざめていきました。
「お、鬼じゃ!鬼じゃー!」
裏返った声が境内に響くと、何事かと思った人々の注目が一気に集まってきます。
神主の祝詞はやみ、一瞬の静けさ。
次に襲ってきたのは、低い声のざわつきと、小さな悲鳴や、声を殺した泣き声でした。
「鬼じゃ!間違いない!ワシが子供の頃、村を襲ったやつと同じじゃ!」
腰が抜けてしまい、その場にへたりこんでしまったおじいさんは、なおもまくしたてます。
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