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「鬼?鬼だってよ…」
「見ろ、あの気味の悪い姿を。」
「じいさんの言う通り、村を襲いに来たのか!?」
「オレも、うちのじいさんから聞いたことあるぜ…鬼ってやつらは、人間が好物で、さらっていって食っちまうらしい。」
「お母、お父、あのひとこわい、こわい!」
突然村中から向けられた悪意。
鬼は、何が何だかわかりませんでした。
鬼?
そうだ。確かに自分は鬼だ。
昔、悪い鬼がこの辺りにいて、村人はそれを恐ろしく思っている。
ここまでは、鬼も考え付きました。
しかし、鬼は信じられませんでした。
先程まで、あれほど楽しそうだった村人から向けられる、様々な視線。
自分は、何も恐がられるようなことはしていないのに。
昔、悪いことをした別の鬼のことなど、まったく知らないのに。
そんな、混乱した鬼の頭を、一つの叫び声が引き裂きます。
「息子を放せ!鬼め!」
鬼に向け、刀を構えたジローのお父さんでした。
いつのまにか、鬼の手はジローの肩に置かれています。
気付いた鬼は、あわててその手を離しました。
しかし、ジローのお父さんは険しい顔を崩さず、鬼をにらみ続けます。
向けられた刀の切っ先も、変わっていません。
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