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ジローの声に、ようやく鬼は我に返ります。
しかし、鬼に注がれる視線は先程と何も変わっていません。
「うぅぅ…」
投げかけたかった疑問、自分をかばってくれたジローへの感謝。
次から次へと湧いてくる感情が形になることなく、言葉にできずに消えていきます。
「うぅおわぁぁぁぁぁ!」
鬼は突然叫び声をあげ、神社の出口へ走りだしました。
その重たい響きに、村人達はすくみあがり、動きを止めてしまいます。
中には、腰が抜け立てなくなる者、泣きじゃくる子供もいました。
ジローも、あまりにいきなり起こった出来事に驚き、鬼を止めるのが一瞬遅れてしまいました。
鬼はすでに神社の階段をかけ降りたのか、もう姿が見えません。
辺りには、泣き声を含んだ村人達のざわめきだけが残っています。
そんな中、ジローは走りだしていました。
もちろん、鬼を追いかけるためです。
しかし、後ろから襟を掴む太い腕に、ジローの体はあっけなく止められてしまいます。
体が衝撃でつんのめり、思わず咳き込んでしまいました。
その腕の持ち主、ジローのお父さんは、強引に引き寄せる勢いそのままに、ジローを怒鳴り付けます。
「待ちなさい!ジロー!」
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