山奥に住む鬼

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これまで見てきた、ウサギやクマなど、どんなやつとも違う。 ゆっくりとした動きしかない、大自然の腹中、山での生活。 それに慣れきった鬼にとって、その出会いはとてもとても衝撃でした。 楽しそうに木に登ったり、美味しそうに木の実をほうばる、よく動くやつ。 言い方を変えれば、ちょこまかと急がしそうで、落ち着きのないやつ。 まるで、一人だけが、まわりの時間と無関係に動いているような、そんな錯覚すら起こしてしまいそうです。 鬼は思いました。 面白いやつだ。 面白そうだ。 そうだ。 こいつに話し掛けてみよう。 なんて言葉をかけよう。 そもそも、言葉なんて、よく覚えてない。 考えてみれば、会話という意志疎通なんて、これまで必要なかったんだから。 大丈夫だろうか。上手くしゃべれるだろうか。 どうしたんだろう。 これだけのことを、一度に考える自分に、鬼は驚きました。 その時です。 鬼が踏んだ枯れ木が、周りに乾いた音を響かせました。 その音は、鬼にとって、これまで聞いたどんな音より大きく、いつまでも体内に反響しているように感じました。 目の前の人間も、何事かとこちらを向きます。
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