待っていたヒト

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「ときに芙蓉様、思いを寄せる殿方はいらっしゃいますかな?」 いつもの狐が聞いてきた。 「ここにずっといるのに、いるわけないでしょう?殿方にあったことなどないもの…。あなた以外はね」 狐は嬉しそうに目を細めた。良かった、良かった、と繰り返して呟き、私をまっすぐ見る。 「芙蓉様、明日、お迎えに上がります。ぜひとも私の妻になっていただきたい」 「狐と人間なんてできっこないわ。あなたはただの狐。妖狐なら別だけど…」 狐はくるっと回って見せた。横にではなく縦に。着地する瞬間には若い人間の男になっていた。 「これなら良いですか?」 いたずらが成功した子供の様に笑う狐。その笑顔が愛らしく、ずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろうか。 「それなら問題は無くなったわ。でも、私はあなたの妻にはなれない…」 母君を置いて逃げ出すなどできない。向こうは私を子供と思っていなくても、私は母君だと信じているから。 「このままでは芙蓉様は…」 「ここでこうして話し相手になっててくれるだけで良いから…」 狐は残念そうに下を向く。その頭を撫でようと手を伸ばすが、やめた。これ以上愛しくなってはいけない。 「明日もくるんでしょ?名前、教えてくれないかしら?」 「雪椰です。また、明日参ります…。どうかご無事で…!」 今日と同じことの繰り返しの明日なのに、雪椰はそう言い残して去った。明日、なにか変わったことでもあるのだろうか? 私にはわからないので、そのまま休むことにした。
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