11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ときに芙蓉様、思いを寄せる殿方はいらっしゃいますかな?」
いつもの狐が聞いてきた。
「ここにずっといるのに、いるわけないでしょう?殿方にあったことなどないもの…。あなた以外はね」
狐は嬉しそうに目を細めた。良かった、良かった、と繰り返して呟き、私をまっすぐ見る。
「芙蓉様、明日、お迎えに上がります。ぜひとも私の妻になっていただきたい」
「狐と人間なんてできっこないわ。あなたはただの狐。妖狐なら別だけど…」
狐はくるっと回って見せた。横にではなく縦に。着地する瞬間には若い人間の男になっていた。
「これなら良いですか?」
いたずらが成功した子供の様に笑う狐。その笑顔が愛らしく、ずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろうか。
「それなら問題は無くなったわ。でも、私はあなたの妻にはなれない…」
母君を置いて逃げ出すなどできない。向こうは私を子供と思っていなくても、私は母君だと信じているから。
「このままでは芙蓉様は…」
「ここでこうして話し相手になっててくれるだけで良いから…」
狐は残念そうに下を向く。その頭を撫でようと手を伸ばすが、やめた。これ以上愛しくなってはいけない。
「明日もくるんでしょ?名前、教えてくれないかしら?」
「雪椰です。また、明日参ります…。どうかご無事で…!」
今日と同じことの繰り返しの明日なのに、雪椰はそう言い残して去った。明日、なにか変わったことでもあるのだろうか?
私にはわからないので、そのまま休むことにした。
最初のコメントを投稿しよう!