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「寛之、何してんだよ」
膳場の肩に後ろから手がまわされる。現れたのは輝一より少し背の高い男だった。
───たしか
「…温水亜星」
ぽつりと秀二が言う。輝一もこの名前はよく知っていた。なんせ彼は、中学の時に個人大会で優勝したことがあったから。
目があう。
温水は誰かを捜すように視線をわずかに動かした。
「あいつはいないのか」
「あいつ…?」
「橋爪灰」
温水の声にどきんと心臓が跳ねあがる。
───灰を…知って……?
温水は輝一の隣のクラスだけど、灰とは違うはずだ。なのに彼は灰を知ってる。
「なんで…」
中学だって違う。彼とは違って大会で良い成績をだしたこともない。(一番良かったので県大会に出たことぐらいだ。それも初戦で敗退したけど)
「…いないならいい」
行くぞと言って温水が膳場を連れて練習に戻る。膳場がチラッと振り返ったことに、輝一は気付かなかった。
───灰は今頃テニスしてるのか…
唇の端を噛む。
輝一は暗闇に取り残されたみたいに、足を踏み出せないでいた。
───俺はまだ…
そこにはいない者の手を、求め続けているんだ。
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