重なる姿、同じ影追い

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微かに空気が揺れて、人影が浮かぶ。 「フィスはどう、クロー」 金髪を流すままにして、久方振りの姿が顕現した。 「…ああ、マカッツ。お久しぶりです。大分容姿が変わりましたね」 「…本っ当に人褒めるってことが下手くそね。こういう時は美人になったとか何とか、お世辞の一つや二つ言うんだよ」 小さく音が一つだけ鳴る。 軽い舌打ちで、非難をしているつもりなのか。 お世辞云々の前に挨拶もなしにまず用件というのは、如何なものかと思わずにはいられない。 「それで、フィス様は」 「かなり悪化しているようです。まだ自我が在るのが不思議なくらい食い込んでいますよ。…ここまで保ったこと自体が僥倖と言うべきでしょう」 もはや、僥倖とすら呼べない状態。 それでも、会えた嬉しさだけでそう思えてしまうのだ。 身勝手で、残酷な想い。 この場で一思いに息の根を断ち切ってやれば、どんなに彼女は楽になるだろう。 それでも殺せなかったのは、自分の押しつけがましい情と、彼女の哀しい思いを知っているから。 「あのねえ、私と長官がどれだけ苦労したと思ってんの。少しは名前らしく苦労しろってのよ。大体ね、勝手に僥倖が降ってきてんじゃないの、裏に健気な努力があんのよ『努力』が!聞こえてる?『ど、りょ、く』!」 「まるでその言い様では私が全く努力していないといった風情ですね」 「あら、そんなこと一っ言も言ってないわ。そういう風に聞こえるってことは自覚症状があるけど言い訳してるとか、後ろめたいことがあるけど認めたくないとか、はたまた開き直ってるとか大概この三択の一つで事足りんのよ。あんたの行動パターンなんてせいぜいそんなとこでしょ」 「よくご存じで。流石あいつに無駄な豆知識大百科を吹き込まれているだけはありますね。ちなみにその三択、八割方二つ目の理由だということを百科辞典に加えて頂けると今後何かと楽ですよ」 「あんたが楽になるんでしょうが!…後ろめたいだぁ?その身体のどこの隙間にそんな良心が入る場所があるのか聞きたいね!それこそ開き直りが九割占めてるじゃないかあんたは!」 完全に手玉に取られてしまっている彼女は、やはり年相応の心根があるのだ。 あの一族の後継者とはいえ、カウラ様の元で育てられただけあって魔力がいくぶんやわらかい。 言葉を裏返せば単に生温いと言うことも出来るが、実践と経験を積めばおのずと似通ってくるはずだ。
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