不信の塊

3/19
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「うああぁっ!」 自分の絶叫に錯乱し、掛布を巻き込んでベッドから転がり落ちた。 ドスっと腹に響くような音と共に、向こう脛をしたたか打ちつける。 私は暫し腹這い蛙よろしくべたっと床に張り付いて伸びきっていたが、やがてがばりと起き上がり、べたべたな前髪を払った。 朝から何の災難だ、もう。 「っう……」 吐き気が込み上げ、空っぽの胃の腑から焼けつくような液体がせり上がり喉を灼く。 一瞬独特な臭いに涙目になりながら幾度か咳き込み、くっと生唾を飲み込んだ。 この頃悪夢さえ見ないほど眠りが乱れていたせいで、水差しを手元に置く習慣がいつの間にか消えていた。 「あ……さ?」 掠れた声で呟き、やや乱暴な所作で掛布を蹴り飛ばす。 ばくばくと全力疾走している鼓動を意味もなく気力で宥めすかし、ベッドにもたれた。 カーテンをつけていない部屋は朝から太陽の光の精が帯をなして跳ね回る。 さっきまで見ていた夢と対照的な穏やかな光景を焦点の合わない視線があてもなく追った。 あんなにはっきりとした夢を見るのは、久方ぶりで。 もう慣れたと思っていたけれど、まだ動揺が大きい。 表情を掻き消すことも、感情という心の波も静めることも、私にとっては造作もないはずのことが。 たった一つ、輪廻のように廻る夢によっていとも容易く打ち砕かれてしまう。 何を今更、悔いているのだろう。 戻せない現実を? 定まってしまった過去を? 心の奥で、私は一体何に―――――――――― 「あーやめやめやめ! 悪夢は終わり! 仕事が先!」 ぐしゃぐしゃと手櫛で髪をおざなりに梳くと、ドスドスと女気ない足取りで自室を出る。 いつもより少し寝過ごしてしまったらしい。 今日から仕事が慌ただしくなるというのに、どうも実感がない。 腰元に括りつけていた髪紐で無造作に髪をひっつめ、気合いを入れ直す。 「さて、行きますか」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!