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「貴女がカウラ様の下働きをしているとは思いませんでしたよ。全く変だと思っていたら…端からあいつが算段してた計画に私は組み込まれたとしか思えない」
全く、あいつと関わって約百年、ろくなことがない。
金魚の糞が如くどこへ行くにもヒラヒラとくっついてきて、かと思えば気分でいなくなる。
正真正銘の金魚の糞なら畑の肥やしにするなり捨てるなりできるのだが、その『金魚の糞』には脳もあれば身体もあり、極めつけは喋るわ歩くわ魔力はあるわ、手に負えない代物なのだ。
「まあ…フィス様を守らないといけないからね。今更死なせたら私は即刻首が飛ぶだろうし…首だけならいいけど全身切り刻まれるのは流石に頂けないから」
まるで他人事のようにつらつらと羅列する彼女の言葉は実にえげつないのだが、それが真実だと知っているクローには何も言えなかった。
それくらい過激な一族の命を負い、マカッツはフィスに付いたのだ。
一つの失敗が一族の滅亡を導く危険と背中合わせであるが故に、その失敗には厳しくならざるをえない。
どんな不測の事態が起ころうと、万策を巡らし、布石を打ち、全てを生かし切れるだけの状況を作り出す。
だから、『失敗』などあってはならないし、あるはずもないのだと。
それが出来ないような者は一族として認められない。
それは決して無情でも非情でもなく、慈悲なのだ。
そんなことを何ともなしに語っていた朋友は今、どうしているのだろう。
衣食住には困らないにしても、やはり安否は気遣われる。
「それにしても、何故今更私を呼んだんです?護衛なら一族に選りすぐりの精鋭が山といるでしょうに」
するとマカッツはこめかみを押さえて、不満そうな顔をした。
「そうそれ、私だってやだったのよあんた呼ぶの。でも…長官が世にも奇妙な呪をフィスにかけてたみたいで」
「…まじない?」
何だ、それは。
「それが俺に何の関係があるんだ?」
反射的に聞き返すと、マカッツは悪戯を思いついた子供のような笑みを見せた。
「よーやくボロが出たね、クロー。あんたに丁寧語は似合わないよ」
あ、と小さく声を漏らし、思わず口許に手が行く。
しまった、やってしまった……!
しかも五十歳以上年下に引っ掛けられるなんて、落ちぶれたものだ。
自分が苦虫を噛み潰したような顔をしているだろうことも容易に想像出来る。
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