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「他人に対してはこの方が世渡りし易かっただけだ」
言い訳めいた言葉に、マカッツの笑みが更に深くなる。
「それ以上何も言わない方がいいわ。この状況で言い募るのは処世術上お勧めしない」
ま、相手が馬鹿正直に信じる人なら別だけどね、と付け加えながら己の髪を指に絡めては解き。
何だかんだで侮れない。
これだからあの一族はいけ好かないのだ。
異常に頭の回転は早いし、口は達者だし、人生経験が浅いうちから世の中全部を見通しているような口ぶりで語られた日には蹴りたくもなるというものだ。
「なら話を切り換える…世にも奇妙な呪が何だって?というかそもそも何でフィスがあんなとこに」
「…あんたそれ本気で言ってる?」
目を眇めて問い返され、大量の疑問符がクローの脳内を大行進していく。
大真面目に悩んでいるクローに、マカッツは動物のような奇声を発した。
「もー信っじらんない!あんた本当にフィスの呪の解き方知らないの!?」
どえらい剣幕で詰め寄ってくるマカッツに思わず身体ごと仰け反った。
「だから呪って何の呪だ!」
「知らないから呼んだんだよ!フィス様の蒼炎が鎮められてるの!」
「そんなこと一目瞭然だろう!それと俺を呼ぶのに何の関係があるのかってさっきから聞いてんだよ!」
堂々巡りの怒鳴り合い、後は口達者の女か気迫の男かどちらかにいずれ軍配が上がるというだけで、内容はすっかすかもいいところだ。
「だって旦那様に文送ったら『クローが知ってるからそっちへやる』って返事来たよ!?話聞いてないの!?」
「人助けをするからお前もやれとか言ってメモ押しつけて、とんずらこいたぞあいつは!」
ぜーはーぜーはー、と言葉も途切れて睨み合いになる。
知らないものは知らない、知らないったら知らないのだ。
とうとうマカッツが折れ、荒く溜息をつく。
「あいつ呼ばわり出来るのはあんただけね。それと長官から直々に長官任命の辞令が下されてる…これで事態は理解してもらえるかな?」
ぴらりと紙切れを指先で摘んで、クローの眼前にぶら下げた。
その筆跡をじっと見つめ、ぽつりと呟く。
「…止められなかった、のか」
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