重なる姿、同じ影追い

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「分かった?」 「ああ。二重に呪をかけたんだろう。…苦肉の策だ。俺でもこうするしかなかったかもしれない」 魔力を許容量以上に放出してしまった上に、カウラ様の呪で魔力の回復と増幅を極限まで抑えているのだろう。 蒼炎を刺激しないために、一つ目の呪を。 蒼炎の糧となる魔力を極限まで削るために、二つ目の呪を。 付け焼き刃だが、助かった。 暫くはフィスの動きを抑制できる。 胸に去来する違和感に、首を微かに傾げて。 「紅炎の確保は」 「あと半年中にはカンダクシ殲滅完了、紅炎を奪い返す。その後に蒼炎と入れ替えて、長に襲名する」 「半年…保つか分からないぞこの呪は」 「だから呼んだの。もう一度呪を結び直してほしいから」 ようやく合点がいく。 最初からそう言ってくれればいいものを。 「要するに、カウラ様の仮留めに近い呪を解いて、俺がきちんと呪かけ直せばいいんだな?」 「そう。よろしく」 「…お前の一族の問題なんだからお前がカタつけるのが妥当な線じゃないのか」 「それはそれ、これはこれ」 言い返す気も失せるような言葉が返ってきて、クローはがっくりと肩を落とす。 「使えるものは使う、これ世の基本、古今東西一般常識ってやつよ」 この笑みを見る度に、思う。 女って下手な化け物より怖い…と。 結構、冗談抜きで切実な、万国共通の男の思いである。 「じゃあフィスが起きたら改めてや………おい、まさか」 笑顔を崩さないマカッツに、疑念の目を向ける。 「…お前、カウラ様の行動を見越して、見殺しにしたのか」 フィスの腕を掛布の中にしまい直して、クローは向き直ってマカッツを見据えた。 「この二つ目の呪、相当な魔力が込められている。並の男なら死んでも足りないほどの魔力が…お前、フィスのためだけに利用した挙げ句カウラ様を殺したのか?」 無意識に声が低くなっていることにも気づかずに、問うた。 「人聞きの悪いこと言わないで。利用出来るものは利用するわ。だけど命賭けたのは長官だもの、私のせいにしないでよ」 「…だが、そういう風に仕向けたのはお前だろう!」 怒気も露に詰め寄ると、マカッツは嫌そうに嘆息した。 「なら訊くわ。フィス様と長官を天秤に掛けたとして、あんたはどっちを取る?」 「フィスだ」 間髪入れずに返した答えは、偽りばかりを繕ってきた彼の本当だった。
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