重なる姿、同じ影追い

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「なら同じね。私はフィス様が大事なの。だから私のやり方で私はフィス様を守る。そのためにどんな手段でも取る、私の手の及ぶ限り」 「違う!」 「何が違うっていうの。私もあんたもフィス様が大事、フィス様の存在が大事。どこも違わない」 「お前はフィスが大事なんじゃなくてあいつが大事なだけだろうっ!」 半ば怒鳴るように言い放った。 唐突にマカッツは口を噤む。 よく見れば、マカッツの握り込んだ手がわなないていた。 「…マカッツ、お前…本当に、あいつのために…?」 ややあって、頷く。 「私もフィス様も…善い方に拾って頂いた。その方の願いの一つくらい、叶えたいって思うのは自然なこと」 「だったら、カウラ様を殺してもいいんだな?」 「…そうね。どうしても選ばなければいけない時も、あるから」 何か選ぶのはとても簡単だ。 だって、答えなど決まっているのだから。 全てを選ぶのは、とても難しい。 力、心、状況が許さなければすぐさま掌から零れてしまう。 「全てを守るなんて夢物語もいいとこ。分かってるなら訊かないで。失うことが、悦楽で選んだわけじゃない」 独り言のような呟きに、クローは曖昧な笑みを少しだけ浮かべる。 どんな甚大な力も、どんな強力な覇権も。 それら全てを手に入れたとて、手のひらから零れ落ちるものは多くて、多すぎて。 形は違えど、選んだ数だけ、何かを捨ててきた。 それは人であったり、心であったり、時であったり。 失ったものを記憶の中で慈しみ、悔恨に苛まされてきたのは互いに同じ。 「長官が嫌いだったわけじゃない…むしろ、好きだった。あんなにフィス様のためだけに尽くすだけ尽くして、体も命も張って。それを利用したのは、否定しない」 見やれば、マカッツは今にも泣きそうな、頼りない顔をしていた。 兇手には辛さしか遺さない優しさを持て余す姿が、あまりにも滑稽で。 それでも泣かない―――――――――泣けないのは、せめてもの意地か矜持か。 「お前らしくもない…全てはフィス様の為の駒なんて豪語してた奴が、随分と弱気になったな」 「っ五月蠅い!あんたはいいんだ、納得ずくで罪にも手を染めてるんだから!私は、私は…人殺しが生業なんだ!」 声量は大してなかったはずなのに、心に直接届いてくる言葉達。
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