重なる姿、同じ影追い

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「私は殺すことでしか生きられない、それ以外の技術なんて知らない、こんなの、共食いしてるのと何も変わんないのよ!」 血を吐くような、それがこの数十年彼女が溜め込んできた思いなのだろう。 「それでも、お前はフィスを守る。それが答えだろう」 唇を噛み締めて俯くマカッツを、どうしてだか慰めてやる気にはならなかった。 たまたまマカッツはあいつに、フィスはカウラ様に拾われた、たったそれだけの違い。 その拾ってくれた人は絶対の存在で、その絶対という支えは時に枷と楔となる。 だが、フィスはそれを失った。 翼の折れた雛鳥を、巣から叩き落とすようなもの。 「…クロー、そういえば長官の体はどうしたの」 う、と返事に詰まる。 一番今突っ突かれたくない話題だったというのに。 「屍は大地に還すのが基本でしょう」 「それを別名で言うと詭弁って言うの」 すっぱりと切り返されてクローは少し苦い表情になる。 「…仕方ないじゃないですか。カウラ様とは面識がなかったんですから」 「状況からいくらでも推測利いたはずよ。今となっちゃどうしようもないけど。極めつけは愛しのお姫様を底抜けの親切心で『うっかり』拾ってきて後で気づくなんて有り得ないわ…」 こんな男にフィス様任せて大丈夫かしら、とぼやきながら行儀の欠片もなく円卓に腰を下ろす。 「お前に言葉でやり込められるようじゃ、フィスに信頼はしてもらえないな」 「長官以外は信じてないんだからどの道同じだわね」 こともなげに言われたその言葉に、クローは瞠目した。 その言葉の、意味は、真意は。 フィスの中から自分の存在が消えていることを、悟る。 「フィス、は…」 何の、どこに衝撃を受けたのか分からなかったが、言葉を無くすほどの衝撃は確かにあった。 自分の言わんとすることを察したのか、マカッツは軽く頷く。 「フィス、あんたのこと全っ然覚えてないよ。だからその理由で手荒な真似しないでね」 言葉が、続かなかった。 何か言わなければと思うのに、口を開いても何も出てこない。 「………っ!」 ぐっと瞑った瞼の裏に鮮やかに蘇る声。 『約束だよ?』 ようやく、果たせるはずだったのに――――――――― がさりと。 ベッドの中で身じろぐ音が耳に届いた。
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