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「全く、手荒な真似しないでって言ったのに何やってんのよ」
「何だか、つい。こういうの意地悪したくなるから」
「最悪の趣味嗜好してるよ。素直に嫌がらせって言ったらどうなの」
「このくらいの意趣晴らしは許されて然るべきだろう」
飄々と言ってのける、どっかにいたわこんな人――――――――――そう、あの旦那様。
長年一緒にいたせいか、少なからずクローは影響を受けているらしい。
こんなことになるだろうと思ったからこそ先に忠告したのに、あまり予防効果は発揮しなかったようだ。
自分の言葉が下手くそ過ぎて伝わらなかったのか、もしくはクローの頭が支離滅裂なのか…一番考えたくないのは両方そうだった場合。
…きっと一生、これで私は苦しむんだろうと嬉しくもない未来を垣間見た気分だった。
「でも、フィスの記憶から俺の存在、完璧に抹消されてたみたいだし、結果としては問題ない」
「話噛み合ってないわ、クロー。その言語能力正すのが先決かもしれない」
目を閉じたままのフィスを、形容し難い表情で見つめているクローにマカッツはがっくりと肩を落とした。
全く、この煮え切らない…思考と行動が北と南に走り出すような逆行行為をしているこの男を冗談抜きで殴ってやりたい。
自分から赤の他人宣言をして、しかも力ずくで押さえつける真似をして。
長官以外、男には異常なほどの警戒心と憎悪を見せるフィスを、知らないはずはないのに。
あれだけの爆発的な魔力を持っていて、男など小指で捻り潰すことくらい軽くやってのける。
だから、恐れる必要はないはずなのだ。
だけど、そういう反応しか示さないその理由を、私は未だ知らない。
「さっさと自分のものにしちゃえばいいでしょうよ、そこまでやるなら。今のフィスは魔力ゼロに近いんだし、思い出してくれたかもしれないじゃない」
「それは人権的に如何なものかと思って…」
人権の問題じゃないだろう、と冷静に突っ込む自分が頭の隅に。
大体どこまで及び腰になっていれば気が済むのか!
「あのね、あんたフィスが大ー好きで飛んで来たんでしょうが!覚えてくれてなかったからって何萎えてるのよ!」
「萎えてるって、何てこと言うんだお前!聞き捨てならないっ!結構な侮辱だぞ!?」
……何だか、話がずれていると気づいた時既に遅く。
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