記憶と枷

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「どうしてっ…」 力強い、私と相反する魔力が絶えず私の身体に流れ込んでくる。 何十年、この慣れ親しんだ温もりの傍らにいただろう。 何度、これを嵌めた手で庇ってくれただろう。 幾度…私のせいでこれを血に染めただろう。 それでも、これを外さなかった。 その意味を、今、電撃が走り抜けるのと同じ速さで。 唐突に、理解する。 「いやああぁぁぁっ!」 己の髪を引き千切りそうなほど強く、引っ張って。 喉を引き裂くような絶叫なのに、痛いところは別の場所にあった。 腕輪を鷲掴んで、力任せに引っ張る。 同じだったから。 同じだったから。 分かっていたんだ。 だから。 蒼炎をも鎮めるほどの力を、ただ私のためだけに散らしたのだ。 理由なんて、分かってもどうしようもなかった。 どんな理由も、自分を糾弾し、追い詰めるだけなのだから。 私が、殺したという事実だけが、変わることがないだけで。 悪夢。 無間地獄。 何と優しく、残酷な拷問。 「やめな、フィス」 無理矢理右手を腕輪から引き剥がされ、抵抗の意を見せると腹部に容赦なく膝が落とし込まれた。 一拍おいて鈍い痛みと吐気が込み上げ、空咳を吐き出す。 「長官が私を次期長官に指名なさっている。それから、お前はクビだ」 聞いたこともないような冷たい声が頭上から降ってきた。 「マカッツ…!」 「黙って聞け。フィス、無理だ。その貧弱な魔力で仕事になるわけがない」 「誰が貧弱だっ…」 思わず手を上げたフィスに僅か早く平手をくらわせ、マカッツは鬱陶しそうに舌打ちした。 「長官はお前の魔力を押さえ込んだ。長官はもう二度とあの職場には戻らない。それがフィスにとってどういう意味をもたらすことになるのか、私は知らない。知ってはいけないものだ、おそらく。これを二度と繰り返したくなかったらやめるんだ。そう伝えて欲しいと、辞令の中に記してあった」 抑揚のない静かな声。 マカッツが、兄様の姿と、声と、重なって。 それに抗うにはあまりにも彼女は無力だった。 力なく投げ出された四肢を動かす気配もないまま、フィスはぼうと病室の壁を見つめる。 兄様の最期の遺された優しい言葉は、マカッツが持っていた。 「に…さま…」 私は。 私は。 私は。 「兄様―――――――…!」 許さない罪を、己に刻み込んで。
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