14人が本棚に入れています
本棚に追加
その中に数人、「知らない顔」が混じっていた。
「…誰か、役人変わった?」
「ああ。前の町長様が体調を崩してお辞めになったんだよ。半年くらい前に変わったんだっけね」
…やられた。
心の中で盛大な舌打ちをして、行き場のない八つ当たりに近い憤りを砕く。
して絶妙な間合いで除名されてしまった。
これでは、動けない。
八方塞がりとはまさにこれだ。
兄様の思惑通りに事が進んでいるのかもしれない。
言い切れないのは、渦中にいる私には見えないから。
見えたら絶望しそうな気がするから見たくもない。
絶望を死に喩えるなら。
喉笛に据えられた刃をじわじわと他人の手で押し込めるがいいか、一息に己の手で掻き切るがいいか。
如何な選択も『絶望』へ繋がると知った時、取る行動は言わば自己満足だ。
絶望は全ての終焉であり、何もかもが無になる。
だから、本当の絶望を知ってはいけないと、本能が叫ぶ。
私にとっての絶望は、復讐する術を完璧に絶たれてしまうこと。
死ぬことなど、絶望の内に入らない。
復讐と己が命を天秤に掛けたらば、己が命を掲げる狂った天秤。
それが、今の私。
「ありがとうおばさん。たまには町に降りて世間話も大事だね」
「フィスはまだ若いんだからそんなこと言うでないよ。さ、少し持っておいき」
軽く虫食った果物を紙袋に詰め、差し出してくる。
一見虫食いの果物は不良品に見えるが、虫が目をつけるくらいの果物の方が意外に美味しいということも、このおばさんが教えてくれた。
果実の甘味は優しいが、返り血は酷く鋭い甘味がある。
舌すらもそんな非道なものを比べるようになってしまったことに、もう嘆くだけの心はなくなっていた。
「ありがたくいただきます。また来ますね」
口の端を持ち上げたが、うまく笑えただろうか。
つくづく、不器用だと思う。
笑い方をかろうじて覚えていて、おざなりに頬を引き攣らせている滑稽極まりない自分。
それは出来損ないの絡繰人形のようだと、思った。
紙袋を抱いたまま、己の罪業の色に酷似した色の空をふり仰ぐ。
はやく。
はやく。
時間が、ない。
最初のコメントを投稿しよう!