14人が本棚に入れています
本棚に追加
根本から叩き潰すには一つの情報の差が命運を分けると知っているから我慢しているようなものの、知らなければ捨身の特攻も辞さなかっただろう。
後は時が何とかしてくれる。
種は播いた。
それが花開いた時にはもうここは機能しなくなるのだ。
花開くかどうかは返答次第。
「明日もう一度来るから町長様に報告して。断ったらあんたがいても血の海だ」
脅迫だった。
でも、悠長にやっている時間がないのだから仕方がない。最後まで首尾良く行かずとも、一人でも多くの犠牲を。
私のようにまだ兇手としての才覚がある者はまだいい。
生きるという意味でも、復讐という意味でも、何かしら術がある。
でも、平々凡々だったら。
その末路は。
末路に至るまではどうなる。
生きるも地獄、死ぬるも地獄。
人にありながら人でなく、獣で無き身ながら獣が如く。
くびり殺されていく。
後輩の射抜くような視線をかわすようにして、廊下へと、元来た入口へと歩を進める。
こちらから仕掛けなければ、何も変わらない。
一人で雑魚を潰しても、負け犬の遠吠えに等しい。
ならば。
虎穴に入って虎を狩る。
まだその選択肢は残っている。
虎児を得ている場合ではない。
根絶やしにしなければ。
「何故です」
左手首を掴まれて、はっと我に返った。
ぎくしゃくと、首を巡らす。
「私の勝手でしょう!」
振り払おうと右手で相手の頬を打った。
パン、と小気味いい音と共に、うっすらと赤く相手の左頬が染まる。
「嘘をついてまで、何を!」
「お前だって同じようなもんでしょ!?私を疑ってたからこんな所に居るんでしょ!お互い様だって言ってんの!」
離された左手首を庇うように、右手で包む。
嫌な感触が、いつまでも残る。
ずるずると頽れて、身体を丸め込む。
安堵と、嫌悪と。
気持ち悪い。
べたべた触られたくない。
人の温度に吐き気がする。
兄様だけは平気だった。
でも、もういないから。
全部、キモチワルイ。
『何で、放っておいてくれないの』
自分が寂しいと叫んでいるからだと知っている。
『何で、私と関わろうとするの』
助けてと心のどこかで思っているからだと知っている。
自分が願っているからだ。
孤独が怖いと思っている、弱い自分がいるからだ。
「いい加減にして下さい!」
声を荒げたクローにきっとフィスは顔を上げた。
「うるさい!お前なんかに指図される謂れはない!」
最初のコメントを投稿しよう!