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気を抜いていたことが、そもそもの間違いだった。
安堵の錯覚に、危機管理がなっていなかった。
あれ以来、姿を見かけるのは数年に一度ほど。
あの子の顔を見たら、何があった後でも何故だか立ち直れた。
誰かに心配してもらえることが、むしょうに嬉しかったことを思い出す。
引きつることすら忘れていた頬が、少し動く。
少しだけなら、笑えるようになった。
今までよりずっと、あたたかい。
「うわ、笑ってやんの」
ざっと背筋に悪寒が走る。
部屋にいる時、僕は人形になっていなければいけない。
本はびりびりにされたから、もう読めない。
生意気だからだ。
動いてはいけない。
目障りだから。
声を立ててはいけない。
耳障りだから。
部屋は、僕にとっての監獄だった。
「出ていけよ」
足が、震えた。
恐怖ではなかった。
長い間、忘れていた、諦めていた。
怒り。
あの子が悪びれることも恐れることもせず見せた怒り。
誰にでも許されるはずの感情すら押し込められていたのだと、頭で理解してしまった瞬間から。
あふれだす。
言いたかった全てが。
言えなかった全てが。
……僕の拳に力をくれた。
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