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熱風が吹き抜けて、腹部の痛みが収まる。
ざ、と気配が俺の周りから遠ざかった。
「なにを、してるの」
かた、と木靴の音が床に響く。
子供らしからぬ浮き沈みのない魔力の波動は、異様な静けさを呼び込んだ。
「フィス、さま…」
「だれがわたしのなまえをよんでいいといった?」
ぱん、と頬を打つ音が聞こえて、自分が殴られたわけでもないのに反射的に身を竦ませる。
「ぶれいもの」
舌足らずな、でも吐き捨てるように言い放った言葉は。
紛れもない、本物だった。
フィス、という名だったのかと今更知る。
「でも、フィスさま!こいつはとがのちすじだ!」
「だから。そんなものをこわがるのは、おまえたちがよわいから。とがのちすじなんかに、わたしはころされない」
ひんやりとした声音が、はるかに年上の子供達を黙らせる。
魔力が怒りを帯びて、冴え冴えと冷たい。
大人の激昂の仕方を、この歳にして知っているというのは異常だった。
子供の怒りの波動は爆発的で、嗚咽のように波がある。
自分が怒っても、そうだ。
他の怒り方をするだけの余裕も器量もない。
「弱いとかよく言えるよな。生意気なやつ」
どん、と肩を押されてたたらを踏んだフスは、不機嫌そうな表情で、百歳は年上であろう少年を見上げた。
「……何だよ」
「ちからもみぶんもひくいくせに」
ダン、と小気味いい音がして少年が仰向けに倒れる。
起き上がろうともがく様は、まるでひっくり返された亀のようだ。
「たにんにはらをみせるなんて、あなたはころされたいの?」
鼻先で笑う。
幼い面差しには不釣り合いで、醸し出す雰囲気にはよく似合う嗤笑。
フィスはしゃがみ込んで、恐怖におののく少年の顔を覗き込んだ。
小さな、小さな声で何事かを呟く。
激しく首を振って、フィスの言に同意したようだった。
吊り上げられるように少年の体が不自然に立ち上がって、廊下の向こうへと歩き出す。
ばたばたと仲間が転がるように駆け出していく足音が廊下に響き、やがて聞こえなくなっていった。
少女の顔を直視することなど出来なくて、床につけたままの膝を見つめる。
「またあったね」
聞き覚えのある、拙い舌足らずな声がした。
「いたいところ、ない?」
「ない。大丈夫」
大丈夫と精一杯の強がりを口走ったけれど、蹴られ続けた腹はかなり痛い。
一人では立ち上がれないほどに。
ぺたりと少女は座り込んで、手を伸ばしてきた。
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