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「マカッツ、パーティー会場のウェイターを八割から九割入れ替えて。ちゃんと腕が立つ奴らにね。なんならレイドの破落戸仲間引っ張ってきて。断ったりしぶったりしないはずだから。パーティー招待状の手筈は?」
「先日の指示通り三枚入手してある」
「すぐ文字移しを複写師に依頼して。自分達でその作業やってる暇はない。官僚のだから隅から隅まで完璧に仕上げないと水の泡、予算最大限に使って頂戴。足りなきゃ私が長官の懐からぼったくってくるからそこは大見栄きってきて構わない」
「いやいや、それはちょっと……」
フィスの至って変わらない表情にごまかされそうになっているマカッツは目を白黒させている。
事実、そこそこの無茶を言っているのも自覚があるため妙にそれが愉しい。
実際のフィスは結構金銭関係はうるさい。
要は、『ケチ』。
仕事ならガンガン先行投資でも借金でも失敗したら破産寸前の綱渡りもするが、自分のお金で博打めいたことは絶対にしない。
やって出来ないことはないのだ。
もったいないとマカッツは思っているらしいが。
読み合いには強い自信はあるし、ある程度は冷静さを失わず大物をきちんと仕留められるだけの技量も経験も勘もある。
私が必要最低限という額は、例え常軌を逸している額だったとしても必要だから作り出さなければならない。
それ相応の見返りを確実にもぎ取ってくるのも、私の仕事だ。
それがこの特殊な生業の資金繰りの大半を占めている。
そのおかげでフィスは誰に気兼ねすることなく金銭を動かせるわけだ。
「えーと、それから衣装はこの前使ったのでいいか。新調するならしてもいいよ。但し当日間に合うようなものにして。後は……」
「今回も気合い入ってるねえ、カンゼル。ただ予算の使い方は考えてくれないかな。無鉄砲に使われちゃこっちも破綻する」
不意に近づいてきた涼やかで深みのある声に指示を遮られ、フィスは背中越しに答えた。
この煙たい臭い、振り返るまでもない。
「仕事場での煙草はやめて下さいっていつもいつもいつも言ってるじゃないですか」
「だからいつもいつもいつも魔族の生理的欲求の一つだって言ってるだろう、食欲睡眠欲性欲と同じだって」
「私にそんな生理的欲求ありませんよ。臭いし肺に悪いし頭悪くなりそうだし、身体ヤワになりますよ」
「そんなことを言っても体術で俺に勝てた試しはないだろう?」
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