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憧れの食堂車は、チハヤのいる寝台車両の隣の隣。
その間にはロビー車――ソファとテーブルが並び、簡素な談話室になっている――がある。
まずはそちらへ向かう。
狭い通路で擦れ違った何人かの大人は、チハヤを見るなり少々眉を潜めていたが、
子供の一人歩きを咎められるようなことはなかった。
親に内緒で行動するのは初めてだったが、調子に乗ってずんずん歩いて行った。
ロビー車の中には何人かの先客がおり、柔らかそうなソファに腰かけて和やかに談笑していたが、今のところ子供はチハヤだけのようだ。
通路を素早く駆け抜け、車両間の重い扉を苦労して開け、隣の食堂車を覗く。
夕食のいい匂い。暖かいオレンジ色の照明。丸みを帯た優しい形の椅子とテーブル。
その中にいる自分と母を想像しながら、チハヤはぼんやりとそれらを見つめた。
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