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時刻は午後六時。
日の短いせいか車外の闇の濃さが先程よりも更に増している。
影絵のような木々の向こうの空に時折星が瞬いているが、他に光はない。
チハヤの好きな、人家から洩れる暖かい光もさっぱり見えなくなってしまった。
だが、今のチハヤにゆっくり車窓を眺める余裕はない。
あれから一応泣き止んだものの未だにしゃくりが止まらず、目も真っ赤になっていた。
チハヤの前には冷たいメロンソーダの缶が置かれている。
彼女が泣き出した際に、少年が慌ててポケットの小銭で買ってきたものだ。
少年は一生懸命チハヤの機嫌を取っていた。
「落ち着いた?ほら、これ飲んで元気出せ」
「私、ソーダ飲めない…」
「……」
すねて意地悪をしたのではなくチハヤは本当に炭酸が飲めない。
少年はさらに困ってしまって短い髪をくしゃくしゃと掻いた。
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