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だがチハヤは、昔見たドラマのワンシーンを鮮明に思い出していた。
ある貧しい家族が夜逃げらしき事をしようとして失敗し、ヤクザの怖いおじさんに追い詰められるのだ。
あの泣き叫ぶ家族の顔に、ユウキと未だ見ぬ彼の両親とを重ねチハヤは戦慄した。
「悪いことだよ」
ユウキはそう繰り返すと、ため息と共に深くソファに沈んだ。
「でもどうしようもなかったんだ。逃げるしかなかった。
逃げたところですぐ見つかるかもしれないけどさ」
「どうしてそんなことになったの?」
「父さんの工場が倒産しちゃったんだよ。…洒落じゃないぞ」
いろんな意味で笑えない。
「まぁその…父さんも母さんも詳しく話してくれないから俺もよく分からないけど、あっという間にこんな状況になっちゃって。
でもな、父さんは遊んで借金を作ったんじゃない。真面目に、一生懸命働いてたのにこうなったんだ」
「そんなのおかしいよ…」
チハヤは悲しくなった。
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