無力

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    「俺もおかしいって思う。でも一生懸命なだけじゃダメなんだって。運も良くなきゃダメなんだってさ。父さんが言ってた。   才能と努力と運が揃ってなきゃあ、大人は生きていけないんだって」     才能と、努力と、運。   子供はどれか一つでも持っていれば褒められるが、大人は違うんだ。   どれか一つでも欠けてしまえばたちまち不幸になってしまうのだ。それはチハヤの両親にも言えることなのかもしれない。     「わかる気がする」   「大変だよな大人って。 それに比べて俺たちはムリョクだよ。何にも出来ないじゃん」     そう、何にもできない。   だから母にとってチハヤは重荷なのだ。     「俺は今12歳だから…父さんみたいに働けるようになるまであと三年以上あるな。 その間どうすればいいんだろう。その間に何かあったら」     チハヤは怖くて、その何かを想像したくもない。   ユウキはその何かを避けるため、或いは受け止めるために早く大人になろうとしている。   チハヤはそんなユウキの姿すら怖かった。    
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