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平安京のとある屋敷に、一本の大きな桜があったそうだ。 狂い咲きの桜の名の通り、その桜は冬に咲き、春に散る。──昔からそうだったわけではない。 男が死期を向かえるほんの数年前。その頃から狂い始めたのだ。 男は弱った体に鞭を打ち、桜の木を見上げた。 そこにはあの時と同じように、美しく花弁を咲かす紅が。はらり。はらはらと。 男はすっかり白くなってしまった髪を撫で、その下の土に、手を触れた。 「──待たせて、すまなかったね」 愛しむように、慈しむように。 男は優しい笑顔を浮かべ、目を細めた。  
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