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「臨める兵闘う者…」
男は何もない目の前の空間に向け、九字を切る。
しかし何もない、と言っても──きっと男には『何か』が見えているのだろう。
片手に構えた札を投げれば、それはただの空間でまるで何かに貼り付いたかのようにピタリと動きを止めた。
「皆陣裂れて前に在り…!」
焔と呼べる代物なのかは、分からない。
しかし熱く、赤く、青い焔が空を引き裂き、焼き尽くす。突如場に轟く異形の叫びはなんとおぞましき物か。
ゆらりと、まるで陽炎のように顕現した存在は──まさに鬼。
「急々如律令…悪鬼退散!」
刹那燃え盛った焔は鬼を包み、天へと散り逝く。終焉の時に響いた叫びまでも──跡形もなく散った。
しばし息を整えていると、ふいに己が上空から声をかけられ溜息を吐いた。
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