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『さすがだな晴明』
拍手でもするのではないかと疑ってしまう言葉に、男──安倍晴明は怪訝そうに眉根を寄せた。ジツと何もない空間をしばし見据えていた晴明だったが、ふいに視線を逸らしまるで何事もなかったかのように大路を歩き出した。
やけに雲が多い空に、雨が降りそうだと思った。
『おい、晴明。無視するなよ』
「…あのなぁ玄武。あの程度の小鬼祓ったくらいでさすがとか言われたら俺の自尊心が傷付くんだよ」
『安心しろ、主(あるじ)はそこまで繊細じゃない』
「うるさい亀のクセに」
『神に何を言うか』
「主に何を言うか」
こんな不毛な言い争いを続けていても何もならないと思ったのか、ふいに晴明は溜息を吐いた。
クスクスと場を占領する笑いは、玄武の物。玄武は晴明の前に姿を──と言っても晴明以外には見えないのだが、姿を現した。
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