2965人が本棚に入れています
本棚に追加
事の始まり、
それは薔薇が一番綺麗に咲いている時期の話。
叔父の一言から始まった。
『‥ねぇ、響古。
今居る学校、転校しよ?』
『‥‥はぁ?』
叔父はそう言いながら微笑む。
アタシはそれをチラリと横目で見ながら叔父の執事に注いでもらった紅茶を口に運んでいた。
『だから、転校しない?』
『‥意味が分かり兼ねる。なんで転校する必要が?』
『ん…簡潔に言うと─‥‥』
『‥‥‥‥?』
『“お姫様”になる気ある?』
────ゴフッ
アタシは、叔父の突拍子の無い言葉に飲んでいた紅茶を吹き出した。それはもう、大袈裟なほど。
…汚いなんて事、この際関係無い。
『‥‥大丈夫?』
叔父自分に掛かった紅茶を、胸ポケットから取り出したハンカチで何事も無かったかの様に拭き取り、言葉を続ける。
『いや、前から思ってたんだよ。君には姫とか…そう言う目立つ役柄が似合うんじゃないかって。事実、今の学校でもそれなりの地位に着いてる訳だし』
相も変わらずにこやかにアタシを見て、とんでもない事を言う叔父。
その発言を聞かなかったかのように、アタシは無表情でかかった紅茶を拭く。
『君は人から一目置かれる人間であるべきだと思うんだ。それに、今まで授業をサボっても何も言われなかったのは…誰のお陰なのか分かってるよね?』
…黒い、黒すぎる。
どさくさに紛れて何を言うんだこのお方。笑顔の支配ってこう言う事を言うんだろう。
『‥悪い、言ってる意味が分からん。あたし頭悪いから』
すると叔父はそんなあたしをスルーして、コホンと咳払いを一つしてあたしを見た。
…普段の叔父からは想像がつかない、真剣な眼差し。
『そんな君に学校を一つ捧げるよ。‥薔薇霞学園…僕の最近のお気に入りの“学校”』
最初のコメントを投稿しよう!