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 N**県M**市に市町村合併により「吸収」されたものの、旧A**村は今も尚、土葬の風習の残る過疎の農村であった。  通常ならば死体遺棄罪とも看過されそうな埋葬ではあるが、古くからの慣習には行政も手を出せないまま、ひっそりと小田嶋守の葬儀は執り行われた――。    「あぁぁぁぁぁぁぁ。」    一人息子の死を受け入れるのを拒む、狂ったような母の嘆き。  涙を滲ませながらもそれをそっと抱き寄せて宥める、震える父の背中。    過疎の進む村、人口も減少し住民皆が親戚の様な地域に於いて今、まだ永の旅立ちには早すぎる青年の死を悼む涙が、暗雲立ちこめる薄墨色の空の下で大地を濡らしていた。    遺体を納めた簡素な棺は土中深くに沈められ、各人一握りずつの土が次々と浴びせ掛けられていき、白い木目は茶の彩りを与えられる。    さらり。さらり。    まるで映画に観る感動的な別れのシーンの様に。  泣き崩れる女。涙を堪える男。    程なく埋葬の儀式は終わり、墓地をあとにする人の流れは酒宴の準備の整った小田嶋の生家へと向かって行った。
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